「ESG格付」「ESGランキング」の課題とESGコンサルタント

日本経済新聞をはじめとする日本の一般紙でも特集記事が急増しているESG投資。過去10年間を経て、投資家の間でも「ニッチ分野」から「主流の考え方」のひとつになってきました。

ESG投資が主流化していくなかで重要性を増してきたのが「ESG格付」です。

投資先のESGに関する評価を、複数の対象で比較しすいように簡素化したESG格付。
そしてその格付を活用して順位付けする「ESGランキング」。
利便性の高さから、投資家がそれらを利用することが増えています。

しかしながら、ESG格付、ESGランキングはまだ発展途上で、さまざまな仕組み上の課題が指摘されています。

現在指摘されているESG格付の仕組み上の課題は、投資する側よりも、むしろ投資される側である企業が認識していないと、知らず知らずのうちに大きな経営リスクを抱えてしまう類のものです。
特に、ESG格付、ESGランキングを上手く利用して経営課題の克服に活かしていこうと考える企業にとって、思わぬ落とし穴にはまってしまうリスクがあります。

この記事では、「ESG格付」「ESGランキング」課題について、シンガポールを拠点とするESGコンサルタントの意見も紹介しつつ、ご紹介していきます。

目次

  1. ESG格付の社会的な役割
  2. ESG格付のメリットと課題
  3. まとめ

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1.ESG格付の社会的な役割

ESG投資とESG経営をつなぐ「ESG評価」

ESGの「E」は「環境(Environment)」、「S」は「社会(Social)」、「G」は「企業統治(Governance)」をそれぞれ意味しています。
投資先の事業運営が、ESGの観点で優れたものか、それとも課題があるのか。
それらを投資家目線で評価するESG評価において、複数の投資先のESG評価の比較を行いやすくしたり、パッと見て投資先のESG経営のだいたいの状況を把握するために用いられるのがESG格付です。

ESG評価は価値観や主観が必ず入るもの

では、ESG評価とは、どのように実施されるものでしょうか。
環境(E)、社会(S)、企業統治(G)面に配慮した「優れたESG経営」といっても、答えは一つではありません

E、S、Gのなかから、経営資源を投下する先としていずれかを選ばなければならない場合、どれを最も重視するべきなのかは、個々の企業の価値観に基づく判断軸もあれば、評価者側の判断軸もあるでしょう。
E、S、Gそれぞれの中身においても同様に、主観が入り込む余地があります。

例えば、環境(E)面において、温室効果ガス削減に取り組んで気候変動対策に取り組むことと、地球上の生物多様性の保全に取り組むこと、どちらが評価されるべきでしょうか?
もちろんどちらも大切で、優劣をつけられるものではありません。

ESG経営を行う企業の立場としては、自社の価値観や自社が歩んできた歴史、そしてこれから目指すもの、克服したい経営課題に基づいて、ESG経営の戦略を立てていく中で、自然と重点項目が定まっていくでしょう。

資産を預かって運用する人が必要とするESG格付、ESGランキング

主観が入ってしまうことが避けられないESG評価ですが、それでは困ってしまう人たちがいます。

それは、投資家のお客様から資金を預かって代理として投資を行っている人たちです。年金基金や投資信託運用者など、巨額の資金を取り扱う人は、自らの投資先の選定において、可能な限り客観的合理的にしなければ、顧客の信用を得ることはできません。

世界的にSDGsの認知が向上し、気候変動への危機感が高まる中で、資金を預けてくれる投資家の間で、「ESG経営を行う企業に投資しろ」という要求が高まっています。そうしたなかで、投資家からお金を預かって代理として投資を行う資産運用者の人は、シンプルで比較可能なESG評価、すなわちESG格付を必要とするのです。

そのようなニーズにこたえる形で、格付機関と呼ばれる企業が、AAAやCCCといったシンプルで比較可能な様式で、ESG格付を提供しています。
本来主観を排除しきれないESG評価の世界で、客観的説明可能なかたちでESG投資を行わなければならない人のために、格付機関から提供されているのが、ESG格付なのです。

ESG格付と格付機関の詳細については、以下の記事で詳しくご紹介しています。

ESG投資に不可欠、格付機関3社+αを徹底解説!

なお、ESG格付で高格付を得ている、もしくは低格付をつけられている投資先を、ランキング形式で紹介しているものをESGランキングと呼ぶことがあります

2.ESG格付のメリットと課題

第一章では、主観が入ってしまうことが避けられないESG評価の性質についてご紹介し、そのうえでESG格付が必要とされる背景をご説明しました。本章では、ESG格付メリット課題についてご説明します。

ESG格付のメリット

ESG格付は、既に述べたように、説明責任をもって他者の資金を運用している事業者にとってメリットをもたらすものです。

ESG格付があれば、投資先候補が二つあった場合に、どちらがESGの面で優れているか、比較が容易になります。その情報を用いれば、資産運用者は、資金の出し手である顧客に、投資先選定した理由をシンプルに説明ができますし、ESG評価に関する責任を、格付を提供する格付機関に押し付けることもできます。

また、投資先を選定する際に、ESG格付があれば、一定の基準でいわゆる「足切り」を行い、その基準以上の格付をもつ先のみリストアップすることも容易です。
いずれにせよ、ESG格付のメリットを享受するのは、ESG格付を受ける企業ではなく、投資家側の人々です。

ESG格付の4つの課題

ESG格付はESG投資を行う投資家を増やし、投資額を増やすためには必要なものですが、多くの課題指摘されています。

例えば、シンガポールに本拠を置き、ESGに関する企業向けのコンサルティング・サービスを提供しているNichefin Consulting社のエグゼクティブ・ダイレクターであるNisha Kohli博士は、投資家が利用するESG格付とESGランキング(日本に限らない)の課題として、以下の4つを挙げています。

1.法整備の不十分さ

ESG格付は法的な規制受けておらず、格付方法のみならず、格付の情報源のひとつである、格付先企業情報開示にも不十分な点がある。

2.創造的側面の評価が不可能であること

ESG格付の評価項目では、事業が社会にもたらす革新性経済価値創造について評価できない

3.全産業共通の評価指標の設定が不可能であること

ESGで考慮すべき要素が全てのビジネスで共通しているわけではない。例えば、保険産業においては二酸化炭素排出に関する尺度は意味をなさない。

4.粉飾の余地

ESG格付は、その評価項目に沿うように事実を曲げて粉飾Window Dressing)するインセンティブを与える。

出典:「ESG投資のメリットと落とし穴」(原題:“Nisha Kohli on the benefits and pitfalls of ESG investing”), Consultancy.asia, 10 August 2020

上記のESG格付の課題を挙げたNisha Kohli博士は、金融と会計分野の博士号をもち、ハーバード・ビジネス・レビューという経営分野の著名な雑誌にも寄稿した経験を持つといいます。

彼女は、ESG投資を、投資家と企業が共有価値(Shared Value、社会的価値の類義語)を生むための機会だと肯定的に捉える立場であり、ESG格付の課題を上記のとおり指摘しつつ、その課題を埋めるために、投資家と企業との間の橋渡しを行う “ESGコンサルタント” が社会に必要だという立場を取ります。(そして彼女自身がそのESGコンサルタントでもあります。)

ちなみに、上記の課題のうち、3つ目の「全産業共通の評価指標の設定が不可能であること」について、彼女は少し誤解を生む表現をしているので、ここで補足します。
彼女の指摘のとおり、全産業に画一的に同じ尺度でESG格付を行うことは適切ではありません。そのため、メジャーなESG格付では、全産業に均一に評価項目を適用するということはしていません。

実際には、産業別に評価項目を変えたり、評価項目の「重み付け」を変えたりしています。
そのため、「全産業共通の評価指標の設定が不可能であること」自身は課題ではなく、一歩踏み込んで、「産業別の評価設計により、異なる産業の企業間でのESG格付の比較が、誤解を生む可能性があること」が課題だと言えます。すなわち、投資先のESG経営の比較を行うために用意されたESG格付ですが、産業をまたいだ企業同士の比較では期待された役割を果たせていない、ということです。

ESG格付の課題は、ESG格付の信用問題でもある

4つの課題のうちの4つ目「粉飾の余地」に関連するもので、最近話題になった事例があります。

世界トップクラスの資源メジャーであるリオ・ティント社は、ESG格付上も高い評価を受けていました。同社はパリ協定を支持し、石炭事業売却したり、国際基準に則った報告書を発行したりと、ESGのE(環境)面での取り組みを活発化し、評価されてきました。

しかし今年に入り、パプアニューギニアにおいて同社が関係した廃坑から毒性のある汚染水が川に流れていると訴えられたりオーストラリアにおいて先住民の遺跡爆破した事実が問題視されるなど、高いESG格付を有する企業に対するものとは思えない批判が巻き起こっています。特に遺跡爆破の問題ではCEOを含む3名の執行役員が辞任させられる事態にまで至りました。
遺跡爆破の件については、以下の記事で弊社コメントを発信しています。

ESG投資熱は社会変化の証か?オーストラリアの古代遺跡爆破が試金石

ESG格付高評価を得ていた企業にこのような批判の目が向けられると、ESG格付という仕組み自身が信用を失うこととなります。

ESG格付にまつわる業界・企業は、自らのビジネスのためにもこうした課題を早期に解決したいはずですが、まだ解決に向けた方向性を見いだせていません

ESG経営を行う企業における、ESG格付のリスク

ESG格付は、その格付にもとづいて投資を行う投資家がいる以上、格付される側の企業にも大きな影響を与えます。
企業としてはもちろんESG格付で高い評価を得て、資本コスト安く投資を受けたり債券を発行したいと考えるでしょう。

上記課題の2つ目「創造的側面の評価が不可能であること」とあるとおり、現状のESG格付では、ESG経営におけるイノベーティブな打ち手を上手く評価できないので、企業もついつい、評価基準とにらめっこをして、格付を上げるための体裁を取り繕おうとしがちです。

課題の1つ目「法整備の不十分さ」にあるとおり、情報開示の規制もないので、格付機関に提示する情報を少し「見栄え良く」しようとすると、課題の4つ目「粉飾の余地」に足を踏み入れてしまいます。

今の時代、社員も容易に情報の発信者になれますので、粉飾はいずれ明るみにでてしっぺ返しをうけることになるでしょう。

そうした意味で、ESG格付という仕組みは、企業に誤ったインセンティブを与えかねないものであり、一言でいうとそれこそがESG格付の課題と言えるでしょう

まとめ

本記事では、ESG投資ESG経営結びつけるものとしてESG評価があるとしたうえで、企業Aと企業Bの比較シンプルにできるようにするために、ESG格付が提供されていることをご説明しました。

ESGランキングは、ESG格付をもとにランキング形式にしたもので、ESG評価が高い(もしくは低い)企業を見つけ出すために用意されるものであることもご説明しました。

ESG投資に対する社会の関心が高まる中で、顧客から資金を預かって代わりに投資を行う資産運用会社等が、手間なく、ESGへの対応を行いたいと思うのは自然なことであり、そのために簡便わかりやすいESG格付」や「ESGランキング」等が必要とされているのです。

「シンプルでわかりやすい」ものには、必ず課題もあるもので、ESG格付も例外ではありません。

まだ実績の少ないESG投資において、ESG的に優良とされた投資先企業の、その開示情報に粉飾があった等の大きな問題がまだ発生していないため、ESG格付を利用していた資産運用会社が、受託者責任の瑕疵等で指弾される例も顕在化していません。

しかし、今後ESG投資の実績がでてくるなかで、本記事でご紹介した4つの課題をはじめ、ESG格付をめぐる課題が世の中で問題視されてくる可能性があります。

ESG格付で大きな影響を受けるのは、格付される側の企業です。

格付をうける企業にとってのESG格付の最大の課題は、「ESG格付の評価項目の範囲内で良く見せようとする(取り繕おうとする)誤ったインセンティブを生む仕組みである」という点でしょう。

その場しのぎの対応は、企業長期的な成長阻害する可能性があります。企業経営者におかれては、ESG格付を上げることに目標をおくのではなく、企業価値の向上に目的をおいてESG経営に取り組むことで、経済的メリットを得つつ、結果的にESG格付も上がっていくことでしょう。

ESG経営を通じて経営課題を克服するには・・・

中長期での投資リターンを向上させるために実施されるのがESG投資なら、経営課題克服するために実施する打ち手の一つがESG経営です。トークンエクスプレス株式会社はその具体的な打ち手をご提案できます。ご関心ある方はぜひ「お問い合わせ」よりご連絡ください。