MAGAZINE 情報発信

IPO前からESG経営に取り組むべき理由

トークンエクスプレス編集部

近年、「E環境」、「S社会」、「Gガバナンス(企業統治)」に配慮して経営するESG経営が注目を集めています。これらESGに関する取り組みや情報の開示に積極的な企業へ優先的に投資を振り向けるESG投資の急拡大が背景にあります。

2021年頭には、米最大手資産運用会社ブラックロックが、投資先企業に、ESG情報の開示とネットゼロへ向けた計画を公表するよう要請 しました。欧米ではすでに、ESG投資の波は、「急拡大」から「あたりまえ」への移行フェーズに入ったと言えるでしょう。

IPOを目指す段階にある企業は、ともすると、まず何よりも先に事業を拡大し、それ以外のことは後から・・・と思っているのではないでしょうか。ある程度収益が安定して「余裕」がでてからでないとESGなんて言ってられない・・・というのが本音ではないでしょうか?

しかし、IPO後も継続的に成長し続ける企業になるためには、IPO前からESG要素を経営に取り入れる必要があります。この記事では、ESG経営は、IPO後に取り組み始めるのでは遅い理由を解説していきます。

そもそもなぜESG投資を惹きつけなければならないのか、どの程度ESG投資に資金が流入しているのか、現在の市場規模、今後の展望については、こちらの記事 で詳しく解説しています。

目次

  1. IPO前からESGに取り組むべき理由
  2. IPO時のESG分析事例
  3. まとめ

1. IPO前からESGに取り組むべき理由

まずは海外での動向、日本は数年後くらいから・・・?

まずはじめに、ことわっておきたいことがあります。本記事では、基本的に海外の市場動向について、事例や調査結果を用いてご説明しています。
しかし、本記事の想定読者は、日本市場の経営者、起業家の皆さまです。なぜなら、日本におけるESG投資の流れは、基本的に海外の後追い状況と言えるからです。欧米における動向は、数年後には日本市場で類似の現象が見られると想像できます。
数年先を見据えて会社の行く末を考えていらっしゃる経営者の皆さまにお届けしたい内容です。

※本稿全体の参考資料
Morgan Stanley (2020) Sustainable Value: How Emerging Public Companies Can Deliver on ESG Expectations

ESGに取り組む一般的なメリット

IPO前からESGに取り組むべき理由の前に、ESGに取り組むことの一般的なメリットについて軽くおさらいしましょう。他にもありますが、大別して5点あげました。

  1. 資金へのアクセス
    全世界のESG投資の市場規模 は約31兆ドル、全投資の3分の1に達します。日本におけるESG投資残高は2018年時点で231兆円にのぼり、2016年比で306%増です。
  2. ビジネスの効率性
    ESG投資を直接うけずとも、E,S,Gそれぞれに取り組むことで、間接的に企業活動そのものの効率性や持続可能性を高めることにつながります。
  3. ブランド、競争優位性
    目的志向のブランドは、Zジェネレーションやミレニアル世代の消費者によりリーチしやすいと言えます。例えばデロイトトーマツの調査 によれば、ミレニアル世代の約5割は環境保全の観点からファストファッションの購入を減らしたり、自分が購入するブランドの環境側面について学習したりという行動をとっています。
  4. リスク・マネジメント
    ESG関連リスクはビジネスリスクです。例えば気候変動を遠因とする自然災害はサプライチェーン拠点移転を余儀なくします。
  5. 人材採用、定着
    デロイトトーマツの調査 によれば、ミレニアル世代は、就職先にESG要素を求めています。例えば、約4割は地域社会の改善への貢献、3割強が環境の改善と保護を求めています。ある米国の調査 でも、被調査者の30%が、自社のサステナビリティ戦略の欠如を原因に離職した経験があることが判明しています。

IPO「前」から取り組むべき理由

それでは、特にIPO前から取り組むべき、逆に言うと、IPO後に取り組み始めるのでは遅い理由を5つ見ていきましょう。

  1. IPO直後から他の上場企業と同じ土俵にたつ
    当たり前のことですが、上場以降、他の上場済企業と同じ舞台で戦う必要があります。ESGへの取り組みなしにIPOすることは、株式市場を戦場に例えるならば、武器弾薬は持っているけれど、丸裸で飛び込んでいくようなものと言えます。
    IPOするレベルの会社ですから、他の企業が持っていないような、高性能あるいは新種の武器を持っているのだと思います。しかし、ESGへの取り組みは、個別企業の強み(武器の種類)とは関係なく、一律に全上場企業が横串に評価される仕組みです。既存の上場企業のあいだでは、鉄鎧なのかモビルスーツなのかの違いはあれども装備している中で、丸裸で飛び込むのは、戦況を日々観察している投資家にも、頼りなく映ってしまいます。
  2. 経時的な変化を見せるには上場前から計測が必要
    投資家は企業の取り組みの進捗状況も評価対象としています。IPO時にESG評価でAAAを取ることを目指す必要はありませんが、次章取り組みのステップでご説明する通り、現状の計測、計測体制の確立を優先し、取り組みの進捗を経時的にアピールする必要があります。
  3. サプライチェーン構築後に後から変更するのは困難
    ESG分野で、後から調整するのが困難な項目として、サプライチェーン関連があります。原材料調達先が環境負荷の高い製造工程をとっていないか、CO2排出量の計測環境(環境「E」)、加工工場における労働者の権利保護状況(社会「S」)、これら調達先選定基準を規定したガイドラインの有無(ガバナンス「G」)など、サプライチェーンに関係する項目は多岐にわたります。一度取引先と関係を構築してしまうと、様々な理由で簡単に変更することは難しいと思います。上場して、投資家に指摘されてから調達先を見直すような事態になれば、IPO後の成長速度に多大な影響を与えるでしょう。そのため、IPOを目指す企業は、初めからESG要素を考慮する必要があります。
  4. IPO時のEとGに関する開示情報が、アンダープライシングに影響有
    スウェーデンのウメオ大学が行った研究 では、米国でアンダープライシングが起きた(IPO当日の初値が公開価格を上回り、IPO企業にとって資本コストがかさむこと)ことはESG開示状況(IPO時の売り出し目論見書(Prospectus)内におけるESG各項目の頻度及びセンチメンタル分析)、特にE環境とGガバナンスの要素の開示不足あるいはネガティブ情報が影響していると結論づけています。Sについては、影響がみられなかったようです。(2015年~2019年にNASDAQかNYSEにIPOした555社対象。)
    ESG格付機関はIPO前の企業の格付を行わないため、上場企業のESG評価とこの研究におけるESG評価の関連性は証明できませんが、少なくともIPOマーケットはEとGに関する情報に影響を受けるということは言えそうです。
  5. PEはESG情報を勘案
    2019年にPwCが実施した調査によれば、プライベート・エクイティ(LP及びGP)の9割以上が、投資判断時のESGに関するポリシーについて既に策定済、あるあるいは策定中と回答しています。さらに、約7割のGP、4割以上のLPが、投資判断時に「常に」最終投資判断委員会に提出するレポートにESG要素を勘案していると回答しています。
    つまり、多くの場合IPOを目指すPEが、そもそも買収先企業の選定、デュー・ディリジェンス時にESG要素を考慮していることになります。
    つまり、PE支援を受けてのIPOを目指す場合であっても、ESG経営とその開示に積極的に取り組む必要があるのです

2. IPO時のESG分析事例

IPO前からESG視点を経営に取り入れたほうが良いと言われても、想像がつきづらいと思います。この章では、事例を紹介したいと思います。

とはいえ、IPO時のESG分析は、欧米でもまだ必要性が訴えられている段階で、具体的な事例には乏しいと言えます。以下では、米国の事例を2つご紹介します。

米Levi’s

ジーンズメーカーとして知られるLevi Strauss & Co. は、30年の未上場期間を経て2019年にNYSEに上場しました。元来、目的志向経営を実践してきた同社は、自社工場の再生可能エネルギー利用率100%、ジーンズ製造工程で水を使わない製品が占める割合68%など、ESG分野に取り組んでいます
製品の修理とリサイクルの推進を通じて、サーキュラーエコノミー の実現を目指すことで、一見新品の売り上げを下げているようにも見えますが、同社のブランド化に貢献しています。

米Uber

2019年5月に上場したUberは、最大規模のユニコーンIPOとして注目を集めました。UberがIPOする直前にPRI が発表した記事で は、Uberが下記の点でESG視点に欠いていると分析しています(要約翻訳)。
PRIとは、国連が提唱する「責任投資原則」という投資家が守るべきガイドラインです。多くの機関投資家等が署名しており、現在のESG投資の潮流をつくったともいえます。PRIについて詳しくはこちらの記事 をご覧ください。

  1. グローバルフットプリントの上昇
    Uber側は、Uberの普及は自家用車の必要性を下げるため、個人による車両の保持率を下げることで、カーボンフットプリントを削減できると主張。しかし、ある研究では、自家用車での移動と、タクシーなどを利用した移動では、移動距離が2.6倍ほどになり、結果的にカーボンフットプリント全体は削減しないという。更にこの点では、競合のLyftが、相当するカーボンクレジットを購入しているのに対してUberは無策である。
  2. 自動運転成功の暁には大量の失業発生
    自動運転によるタクシーサービスが可能になった際には、現在のドライバーという途方もない人数が失業することになり、その際の社会的なネガティブなインパクトは計り知れない。
  3. ドライバーとの雇用関係
    Uberに参画するドライバーが個人事業主なのか従業員なのかという問題がある。Uberは個人事業主であると主張していますが、従業員と見なされる場合、有給休暇を確保したり、社会保険などの支払い等が発生し、ビジネスモデルの根底が覆されてしまう。(※訳注 こちらはまさにUberが直面した課題で、イギリスではUberのドライバーは従業員とみなされるべきである と、2021年2月に最高裁が判断。)
  4. データセキュリティ
    Facebookが30億ドルの罰金(※訳注 2019年5月記事発表当時。2019年後半時点では50億ドル。)を課せられたのは、データセキュリティの問題であった。Uberも、誰がどこからどこまでいつ移動したのかという、個人のプライバシーに関係し、情報として価値があるデータを保有している

まとめ

いかがでしたでしょうか?
IPOを目指す企業は、海外では既に、日本でも近い将来「まずはIPOにこぎつけて、それからESG経営」の順番取り組むのでは手遅れになるであろうことを説明しました。
まずは事業の成長を優先したくなる気持ちは分かりますが、IPO後も持続的な成長を目指す場合には、つまり、長期的な企業価値向上を目指すには、なるべく早くESG経営に取り組む必要があります。

実際にどのようにESG分野に取り組めばよいのか、実施手順については、マテリアリティという考え方が有効です。企業価値の持続的な向上にどの程度寄与するかどうか、さらにステークホルダーにとってどの程度重要か、という2軸で課題を整理し、取り組む課題に優先順位をつける方法です。
マテリアリティ分析と運用方法については、こちらの記事 で詳しく解説しています。

今後IPOを考えていらっしゃる企業の経営者におかれては、少し自社のビジネスのESG側面を考えてみてはいかがでしょうか。

自社のビジネスに適したESG経営を始めるには

既に貴社がお持ちの「社会的価値」を見える化し、企業価値につながるESG施策をご提案できる、トークンエクスプレス株式会社にご相談下さい。

CONTACT お問い合わせ

弊社は、「<社会的価値>をビジネスのチカラに」をスローガンに、御社のビジネスにおいて、社会課題の解決に寄与する側面の見える化・拡大・発信をお手伝いし、利益増大に貢献します。
まずはお気軽にお問い合わせください。

トップへ戻る