ESG投資とは、「環境(Environment)」、「社会(Social)」、「企業統治(Governance)」、 これらの非財務情報の開示や取り組みに積極的な企業へ、優先的に投資を振り向ける投資手法です。企業目線で言い換えると、ESGの各分野を積極的に経営に統合することをESG経営と呼びます。
2020年10月、菅首相が所信表明演説で「温室効果ガス2050年実質ゼロ」を表明したことも相まって、ESGという言葉を耳にする機会が急激に増えました。そのため、一過性の流行のように感じている人もいるかもしれません。しかし、世界ではじわじわと増加し続けており、今では、31兆ドル(約3,418兆円)規模の投資残高を誇り、世界全体の投資残高の3割程度を占めていると言われています。
これは一過性の流行で終わらずに、今後はむしろ企業経営の基本となり、ESGに配慮しない企業は生き残れない時代がやってくると思われます。この記事では、これからの経営者がESGを無視できなくなっていくだろう状況を、実際のデータをつかって見ていきます。
目次
1. ESG投資の発祥、PRI(責任投資原則)とは

国連PRIがはじまり
ESG投資という概念は、2006年に国連が「PRI(責任投資原則)」を提案したことに端を発しています。その内容は、投資の意思決定プロセスにESGの3要素を受託者責任の範囲内で反映させるべきである、というものです。当時、国際連合事務総長であったコフィー・アナンが金融業界に対して提唱し、現在でもガイドライン的な位置づけとなっています。
ESG投資への関与の仕方としてのPRI
機関投資家にとって、ESG投資へ踏み出す最初の一歩とも言える行動が、PRIへの署名です。署名した機関投資家やアセットオーナーは、その全資産を、下記のPRI6原則に従って運用していることになります。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も委託先運用会社にPRIへの署名を促しています。
PRIの6原則
PRIに署名する機関投資家は、受託者責任と一致することを条件に、以下の6つの原則にコミットすることになります。
- 私たちは投資分析と意思決定のプロセスにESG課題を組み込みます。
- 私たちは活動的な所有者となり、所有方針と所有習慣にESG問題を組入れます。
- 私たちは、投資対象の企業に対してESG課題についての適切な開示を求めます。
- 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるよう働きかけを行います。
- 私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために協働します。
- 私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。
PRI署名機関数と総運用資産額の推移
2006年のPRI発足時には、署名機関数63、署名アセットオーナー数32、運用残高合計8.5兆ドル(850兆円)でした。2020年現在、署名機関数3038、署名アセットオーナー数521で、資産運用残高合計127兆ドル(約1京2700兆円)にまで増加しています。
日本では2020年時点で、合計87社(機関投資家53社、アセットオーナー23社、サービスプロバイダー11社)が署名しています(PRIウェブサイト署名機関一覧、2020年12月10日最終アクセス)。

2. 世界のESG投資残高
世界全体のESG投資の市場規模(投資残高)
世界全体
2018年時点の世界全体のESG市場の規模は、約31兆ドルです(Global Sustainable Investment Review 2018, Global Sustainable Investment Alliance(GSIA, 世界持続的投資連合) )。2012年の13兆ドルから6年間で2.3 倍に増加しています。
地域別
地域別にみると、2018年時点の世界のESG市場の85%をヨーロッパ諸国と米国が占めています。2016年時点では、ヨーロッパ諸国と米国で90%を占めていたため、他の地域でも少しづつ増加してきたと言えます。
日本は2018年時点でまだ7%と存在感は大きくはありませんが、2016年時点では2.1%であったことを考えると、伸び率は高いと言えます。(GSIR 2016, 2018 )。

通常投資とESG投資の比率
2018年で、投資市場全体にESG投資が占める割合は、オーストラリア/ニュージーランドで63.2%、欧州及びカナダで50%前後と、ESG投資が通常投資の割合を超えているか同等までになっています。
米国でも2014年に17.9%、2016年に21.6% 、2018年に25.7%と増加。トランプ政権でESG投資に逆風があったにもかかわらずじわじわと増えているので、バイデン政権になった暁には、加速度的に増加する可能性があります。
日本では2016年の3.4%から18.3%へと、2年間で約15ポイント上昇しています(日本は2014年以前のレポートではアジアの一部として扱われていました。そのため、個別の集計データが2016年以降しか存在しません) 。
3. 日本のESG投資残高

日本におけるESG投資残高の推移
日本におけるESG投資の市場規模は、231兆円(2018年時点)です。2016年の57兆円から306%増で、この2年間の伸び率では断トツ1位です。同時期に、世界全体では34%、ヨーロッパ諸国では11.4%、米国でも37.5%しか伸びていません。日本におけるESG投資市場は、加速度的に拡大しており、これからしばらくは、この傾向が続くと予測できます。
日本におけるESG市場の拡大を予見させる動き
GPIFのESG関連インデックス採用
日本におけるESG投資の火付け役は、年金積立金管理運用独立法人(GPIF) といえるでしょう。GPIFが2015年に「責任投資原則(PRI)」に署名したことで流れが変わりました。つまり、GPIFにおいては、その全資産である151兆円(2019年時点)が、なんらかの形でESGに配慮して運用されているということです。
そしてさらに、ESG格付 に沿って銘柄選定された指数に連動して運用される、より厳しい基準のESG資産として、5.7兆円運用しています。現在、GPIFが採用しているESGインデックスは、全部で5種類あります。
- S&Pダウ&ジョーンズ
S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数 - S&Pダウ&ジョーンズ
S&P大中型株カーボン・エフィシェント指数(除く日本) - MCSI
ジャパンESGセレクト・リーダーズ指数 - MSCI
日本株女性活躍指数(WIN) - FTSE
Blossom Japan Index
※参考資料
2019年度ESG活動報告 、年金積立金管理運用独立行政法人
金融庁が機関投資家の行動規範にESG要素の勘案を導入
金融庁もESG要素の勘案を後押ししています。2017年に「『責任ある投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」を改訂 し、機関投資家が、投資先企業のESG要素を含む非財務情報等の状況を的確に把握することを義務付けました。
このコードの副題が、「投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために」となっていることからもわかる通り、財務的リターンのみで投資先判断をすることが時代遅れになりつつあります。
金融庁は今年2020年3月に同コードを再改訂 し、持続可能性(サステナビリティ)への配慮について更に踏み込んで言及しています。
このように、日本におけるESG投資の市場規模は、今後も拡大傾向が続くことが見込まれます 。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ESG投資の発祥であるPRI原則から、世界中のESG投資残高の伸び、それを追う形で日本でもESG投資が急激に増加している現状を見てきました。
2006年に国連主導ではじまったESG投資ですが、国連といういわば資産運用業界にとっての外部者ではなく、資産運用業界全体に浸透してきたと言えるのではないでしょうか。
将来的には、ESG配慮が資産運用業界の常識となり、ESGに配慮していない、ESG情報を開示していない企業は、まったく投資対象から外れてしまう世界がくるかもしれません。
企業経営の視点でいうと、ESG各分野の取り組みは、一般的に成果が出るまで時間がかかります。今から取り組まなければ、将来的に資金調達が難しくなる可能性があります。逆に、ESGに取り組んでいる企業が少数にとどまっている現在、機関投資家は、ESG投資の対象となる企業を探しているとも言えます。
急激に成長する分野には課題がつきものです。ESGにおいては、ESG評価の確固たる基準がないことが課題 です。基準が整備されていない今、ESG情報を開示することそれ自体にすら価値が置かれているのが現状です。このモメンタムを利用して、取り組んでいること自体を評価してもらえるうちに、ESGの取り組みを始めましょう。
高いESG評価を得ること自体は経営の目的にはなりえません。しかし、自社の経営戦略のなかに、しっかりと位置付け、計画に組み込みつつ通常業務を遂行していくことがESG各分野の各項目の評価をあげる合理的なアプローチと言えます。
貴社の経営戦略にESGをしっかりと位置付けるためには・・・
経営戦略にESG配慮を取り込むには、ESG投資の潮流と、自社の強み・特徴とを結びつけ、それを実際の業務に落とし込むところまで行う必要があります。トークンエクスプレス株式会社は、その具体的な打ち手をご提案できます。
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