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統合報告書とは?目的と必須項目【国際開示基準マップ付き】

トークンエクスプレス編集部

統合報告書とは、財務データと非財務データの双方を、企業価値を構成する要素として、一貫した形で報告するものです。

統合報告書と同様の性質をもつものを、アニュアルレポートや年次報告書と呼んでいる企業もあります。本記事では、財務情報中心の報告書と区別するために、あえて統合報告書と呼びます。

日本においては、2020年時点で、上場企業のうち579社が発行しています。2010年時点では23社だったことを鑑みると急速に浸透していることがわかります。

昨今のESG投資への急激なマネーの流入は、投資家、ひいては消費者が、企業の社会的責任へ関心を高めていることを表しています。各企業が、いかに財務と非財務を戦略的に統合し、企業価値の向上につなげることができるかが試される時代になってきたと言えます。

財務と非財務を一貫した戦略に落とし込み、全社的に納得感を持って取り組む素地を作るツールとして、統合報告書は役に立ちます。統合報告書の企画執筆プロセスを通じて、経営層から一般社員までの認識を統一し、どのように自社が価値を創造していくのか理想像を共有することができるためです。

この記事では、統合報告書を書くそもそもの目的や他の報告形態との違い、統合報告書の必須項目や参考にできる国際開示基準をご紹介します。

財務情報の項目については、様々な既存の解説があります。本記事では、非財務情報をいかに財務情報と統合して書くかについて絞ってご説明していきます。

目次

  1. 統合報告書の目的と想定読者
  2. 統合報告書の項目事例
  3. 統合報告書の開示基準
  4. 統合報告書の発行事例
  5. まとめ
    参考情報:統合報告書をESG投資につなげるには…

1. 統合報告書の目的と想定読者

企業が発行する報告書の目的と想定読者

財務寄り

財務寄りの報告書としてまず初めにあげられるのは有価証券報告書です。想定読者は、投資家です。投資家が知りたい情報は、企業の業績とそれを左右する事柄に関する情報です。そのため企業は、財務状況を中心に、業績と見通しを報告します。
有価証券報告書にも、非財務情報を記載することがあります。それは、「重要性の原則」に従って、非財務情報が財務状況へ「大きな影響」を与えると判断される場合に限られます。
今後、気候変動などが財務に与える影響を開示するよう求められることも予想されますが、現状でこの「大きな影響」の確たる定義はなく、企業の判断にゆだねられています。

統合型

統合型の報告書にも、様々な傾向があります。想定読者は、投資家だけでなく、企業活動にかかわる様々なカウンターパートが想定されています。例えば、サプライチェーン上の協業・提携先の企業、顧客、学生、政府関係機関やNGOなどがあります。
第一想定読者は投資家である傾向が強く、財務情報は必須です。それに加えて、有価証券報告書よりも、広範な非財務情報を報告します。
時間軸では、影響が来期にすぐに出るほどではないが、数年後には影響があるかもしれないような非財務情報も報告対象になります。
内容面では、財務への影響をより広く解釈し、ブランド価値などの無形資産が企業価値に与える影響も含むことになります。

非財務寄り

非財務情報を中心に報告する報告書として、サステナビリティ報告書、CSRレポートがあります。企業にもよりまずが、企業への財務影響の大小に関わらず、企業が行っている地球環境や社会の持続性(サステナビリティ)への取り組みを紹介するケースが一般的です。
想定読者は、ESG評価機関に加え、環境NGOや政府関係機関、学生や地域住民などで、企業活動が環境や社会へ与える影響に興味をもつ層です。
もちろん投資家も想定読者に含まれますが、投資家の場合は、別建てで財務情報を掲載しているアニュアルレポートや統合報告書を重視する傾向にあると言えるでしょう

2. 統合報告書の項目事例

それでは、統合報告書には何を書けばよいのでしょうか?一般的な項目を簡単にご紹介します。ポイントは、財務と非財務情報を完全に分けず、両者をつなぐロジック、戦略を一貫したストーリーとして伝えることです。

ミッション、ビジョン、バリュー

定義の仕方が分かれるので、それぞれの詳述は控えますが、後述する価値創造ストーリーの根幹をなす部分です。企業が、自社の活動を通じて到達したい理想の世界、その世界を実現するために自社が果たす使命、役割、自社があるべき姿、社員の行動指針など、その企業の存在意義を説明する項目です。

価値創造ストーリー

価値創造ストーリーとは、企業が持続的に価値を生み出し続ける仕組みを、定量だけでなく定性的な情報をもとに説明するものです。
利益などの財務情報や、ESGの各評価項目に分野にもとづいた非財務情報の数値を並べても、その数字の背景にある企業の特色はわかりません。なぜ、どのような経緯で上述のミッション、ビジョンを掲げることになったのか等、価値を創造する土台である競争優位性や企業の特徴と、後述する中長期経営戦略を結びつける必要があります。
自社が、なぜ、どのような価値を生み出すことを目指しており、今どの程度まで進んでおり、今後どのように達成するつもりなのかを論理的に説明するのが、価値創造ストーリーです。

マテリアリティ

マテリアリティとは、重要課題を指します。詳細は、「マテリアリティ(重要性)とは?企業価値向上にマテリアルな課題を見つける方法」の記事に譲りますが、企業価値の向上(機械)あるいは棄損(リスク)に影響を与える課題を網羅的に洗い出し、優先順位をつけ、自社が取り組むことを決めた課題をマテリアリティ(重要課題)と呼びます。
統合報告書内では、マテリアリティの特定に至った分析の経緯自体、取り組むことを決定した課題、それぞれのリスク・機械分析を記載します。

中期経営戦略・経営戦略

経営戦略については、様々な解説がありますので詳細は譲ります。ここでポイントなのが、財務的な戦略と非財務的な戦略を別建てにせずに、上述の特定されたマテリアリティを価値創造ストーリーに組み込んで、一貫したひとつの体系的な構造に設計することです。

主要KPI

KPIについても、財務的なKPIと非財務的なKPIを分けず、上述の価値創造ストーリーにもあるように、ひとつの体系的な構造に設計することがポイントです。KPIを目標値と達成状況を記載し、目標未達であっても理由を付して、正直に現状を開示することが重要です。
現時点では、非財務情報については、開示することそれ自体が評価されます。結果のよしあしに関わらず、現状を正確に開示し、次回報告時に進展を見せることが大切です。

ガバナンス体制

立てた戦略や設定したKPIを着実に遂行、達成するためには、随時モニタリングし、必要に応じて再設計する体制の確保が大切です。最近では、非財務KPIを役員報酬に紐づける企業も出てきています。
統合報告書内では、企業がどのような体制を構築しているのか関心が高いため、それぞれの工夫を見せる必要があります。

非財務情報と紐づかない財務情報

その他、非財務情報との統合的な報告という観点は薄いですが、統合報告書に掲載するべき必須項目として、以下の財務項目があげられます。

  • 資本コストと財務戦略
  • 業績・財務報告
  • 業績見通

3. 統合報告書の開示基準

統合報告書には、既に確立された国際基準がいくつかあります。ここでは簡単にそれぞれの特徴をご説明します。

オリジナル構成の統合報告書と基準対照表のコンビで対応

複数の国際基準がある・・・と聞いて驚かれたのではないでしょうか。非財務情報を含んだ開示については、いまだに国際的な統一基準がなく、群雄割拠状態にあります。
統合報告書の構成はあくまで、自社の状況に即したものにしましょう。それぞれの国際開示基準に該当する箇所が統合報告書のどこに記載されているのかを示す対照表を作成すると、コスト低く抑えられます。例えば、花王が作成している対照表(GRI、ISO26000、TCFD)はコチラです。

代表的な国際開示基準

代表的な国際基準がそれぞれカバーする範囲を示した図が以下です。

国際開示基準マップ
※弊社作成。

分野横断型

分野横断型の開示基準として、IIRC(International Integrated Reporting Council)IRフレームワーク、 77業種ごとに開示項目を定めたSASB(Sustainability Accounting Standards Board)SASBスタンダード、サステナビリティ報告の鉄板と言えるGRI(Global Reporting Initiative)GRIスタンダードがあげられます。

テーマごと

テーマごとの開示基準は多岐にわたるので、全てを挙げられませんが、例えば環境面では、TCFD、ISO26000があげられます。ESGのE環境の評価項目についてはこちらの記事で詳述しています

4. 統合報告書の発行事例

開示の義務化への流れ

EUでは、2021年3月から金融サービス提供者による非財務情報の開示が義務付けられます。投資家に対して、金融商品の非財務情報提供を義務付けるということは、その金融商品に組み込んでもらうには、各企業は、関連する非財務情報の供出を求められるということです。
既に持っているデータであれば開示自体は難しくないかもしれません。しかし、例えばサプライチェーン上で発生しているCO2量を開示しなさい、と言われても、測定する体制が整っていなければ無理ですよね?
いずれ、日本にも非財務情報開示の義務化の波がやってくる可能性は高いですが、いざその時に、●年以内で開示、と言われても急に体制を整備するのは難しいのが現状だと思います。きたる将来に備え、同業他社と差別化を図るためにも、今から体制を整え始める必要がありそうです。

海外における統合報告書事例

それでは、海外で評価されている統合報告書の事例を2つご紹介していきます。

事例1 Vodafone Group(多国籍)

Vodafone Groupは、英拠点の通信系多国籍企業です。Vodafoneは、アニュアルレポートサステナビリティレポートを発行しています。アニュアルレポート内には、逐一サステナビリティレポートの関連個所の記載があり、財務情報と非財務情報が不可分であることが見て取れます。
アニュアルレポートは、IIRCのフレームワークにもとづいて作成しています。
EY Excellence Integrated Reportで2021年版4位にランクしています。

事例2 NetCare(南アフリカ)

NetCareは、南アフリカのヘルスケア企業です。NetCareもIRRCのフレームワークにもとづいた年次統合報告書とサステナビリティレポートを発行しています。価値創造のプロセスが報告の中心に据えられ、マテリアリティ(material matters)は、社会課題を自社にあてはめるのではなく、企業価値へ影響する課題という尺度が色濃く出ています。
GRI スタンダードとの対照表を用意しています。
こちらも、EY Excellence Integrated Reportで2021年版で5位にランクしています。南アフリカは、全体的に企業の統合報告書の質が高いことで有名で、「世界10ヵ国の統合報告書の比較分析」というIIRCの研究報告でも軒並み1位を獲得しています。

日本における統合報告書発行事例

事例1 三菱ケミカルホールディングスグループ

三菱ケミカルホールディングスグループは、統合報告書をKAITEKIレポートと名付け、上述の要素をくまなく網羅しつつ、ひとつの一貫したストーリーとして分かりやすく見せています。
すべての要素を、企業価値の向上と、社会課題の解決の両側面からとらえ、ミッションの下にひとつのロジックで、経営戦略まで落とし込んでいます。
国際開示基準については、GRIスタンダードとの対照表を作成しています。

事例2 住友化学

住友化学は、統合レポートサステナビリティデータブックを発行しています。住友化学は、価値創造ストーリーを中心に据え、財務と非財務を統合して記述することに注力しています。マテリアリティ分析とそのKPIについても詳述しています。
国際開示基準については、GRIスタンダードとの対照表をサステナビリティデータブックの最後に掲載しています

まとめ

いかがでしたか?
統合報告書とは何か、他のタイプの報告書と、想定読者や目的がどのように違うのか、どのような項目を記載すればよいのか、どのような国際開示基準のフレームワークを参考に執筆すればよいのか解説してきました。

海外と日本の実際の報告書事例を通して、それぞれの企業が、自社の状況にフィットさせてオリジナルな統合報告書を作成していることがわかりました。国際基準は、項目の参考にしつつも縛られることなく、対照表を作成しているところが多かったです。

統合報告書は、まだ上場企業における取組が多いのが現状です。しかし、自社がどのようにどのような世界を目指し、どのような価値を創造することを目指すのか、社内の認識を統一して全社一丸となって取り組む必要があるのは上場企業だけではありません。
むしろ、中小企業において、統合報告書の作成を契機として、今一度、財務と非財務の現状を確認し、目標値を設定して、実行体制を整備するのも一考に値すると思います。
ぜひチャレンジしてみてください。

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財務と非財務両面における価値創造ストーリーをご提案できる、トークンエクスプレス株式会社にご相談下さい。

参考情報:統合報告書をESG投資につなげるには…

2021年3月9日公開
2021年6月14日一部更新
2021年9月24日一部更新

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