最近、ビジネスの現場でも多く聞かれるようになったSDGs。皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか?SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、世界全体が経済成長と環境保護などを両立させながら、持続的に成長していくことを目指す、国連によって定められた17の目標です。しかし、SDGsが2030年までだということはご存じでしたか?
主に企業が中心となって自発的に取り組んでいる、「国連グローバル・コンパクト(UNGC: United Nations Global Compact)」があります。こちらは、社会の良き一員として持続可能な成長を実現するために「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4分野で企業が守るべき10の原則を定めています。こちらは決められた達成期限がある数値目標ではなく、ずっと守るべき原則です。
2020年10月、外務省が「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025年)を策定しました。日本企業で働く皆さんにとって、人権はどこか遠いもののように感じていませんか?
この記事で分かること
- SDGsを相互的に強化・補完するグローバル・コンパクトの概要
- グローバル・コンパクトとSDGsの関係性
- 企業がグローバル・コンパクトに加盟するメリット
- 日本企業の事例
目次
1. SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、2015年に国連によって定められた17の目標です。その特徴は、貧困削減や飢餓の撲滅など主に低所得国に関係する項目の他に、ジェンダー平等や気候変動など先進国も含めた世界全体が取り組むべき項目が取り入れられていることです。SDGsに関して詳しくは、国連広報センターのHPをご覧ください。
しかし、SDGsは2015年から2030年まで、15年間の目標しか定めていません。実は国連グローバル・コンパクトの方が長い歴史があり、長期的に続いていくものなのです。
2. 国連グローバル・コンパクトとは?
持続可能な成長を目指す企業の自発的な取り組み
国連グローバル・コンパクトとは、企業や団体が持続可能な成長を実現するための世界的な枠組み作りに自発的に参加するイニシアティブです。具体的には、グローバル・コンパクトに加盟する企業は、企業経営者自らの意思で、人権保護、不当な労働の排除、環境への対応、腐敗防止の4分野に関わる原則を継続的に遵守します。結果的に、ビジネスの社会・環境への負の影響を減らし、よいインパクトを高めるのに役立ちます。
加盟企業・団体は、世界で157ヵ国以上、1万2千(そのうち企業は約60%)を超えています。日本では、約380の企業・団体が加盟しています(2020年12月時点)。
グローバル・コンパクトの歴史
グローバル・コンパクトの歴史は意外にも長く、1999年の世界経済フォーラム(ダボス会議)でコフィー・アナン国連事務総長(当時)が提唱したことから始まりました。2000年に、ニューヨークの国連本部で正式に発足し、その後2004年に腐敗防止に関する原則が追加されました。
3. SDGsと国連グローバル・コンパクトの関係
グローバル・コンパクトの10原則と関連するSDGs目標
分野 | グローバル・コンパクトの10原則 | 特に関連するSDGs目標 |
人権 | ①人権擁護の支持と尊重 | 8.5 |
人権 | ②人権侵害への非加担 | 16.6 |
労働 | ③結社の自由と団体交渉権の承認 | 8.8 |
労働 | ④強制労働の排除 | 8.7 |
労働 | ⑤児童労働の実効的な廃止 | 8.7 |
労働 | ⑥雇用と職業の差別撤廃 | 10.2, 10.3 |
環境 | ⑦環境問題の予防的アプローチ | 6、7、12、13、14、15 |
環境 | ⑧環境に対する責任のイニシアティブ | 6、7、12、13、14、15 |
環境 | ⑨環境にやさしい技術の開発と普及 | 6、7、12、13、14、15 |
腐敗防止 | ⑩強要や贈収賄を含むあらゆる形態の腐敗防止の取り組み | 16.4、16.5、16.6 |
相互に補完・強化するグローバル・コンパクトとSDGs
外務省の行動計画によると、グローバル・コンパクトとSDGsは相互に補完し、強化するものです。具体的にどのような項目が重複しているのでしょうか?SDGs、グローバル・コンパクトの10原則ともに、それぞれの目標と原則が関わりあっているものなので、この原則はこの目標に当てはまる、とはっきりと分かれている訳ではありません。ここでは、それぞれの原則に関連の強いSDGsの目標を紹介します。
人権
企業活動と人権は遠いイメージを持たれることが多いですが、企業活動は人が人に対して行っていることですので、人権と深く関わりがあります。特に、企業活動が人権に関わる場面として、職場内での人の扱い方、海外での企業活動、サプライチェーンマネジメントなどがあります。
SDGs8「働きがいも、経済成長も」は企業活動と繋がりの強い目標ですが、その中の小目標5は、「性別や年齢、障がいのあるなしに関係なく、同等の仕事に対して同じだけの賃金を支払うこと」を定めています。これは、グローバル・コンパクトの原則①で定められている差別撤廃の原則と重複していると言えます。

また、グローバル・コンパクトの原則2では「人権侵害への非加担」を定めていますが、これは直接的・間接的加担の両方を含みます。さらには、関わっている事業に人権侵害があるのを知りながらも、企業が何も言わない・行わないのも問題とみなされます。これは企業の透明性に関わる部分で、SDGs16小目標6との関連が強いと言えます。
具体的には、例えば一部の民族に対して差別などを行う政府に資金が流入して、結果的に市民迫害に資金提供をしている、といった間接的な加担もNGです。
労働
労働分野の原則③は「結社の自由と団体交渉権の承認」を定めています。これはSDGs8の小目標8「あらゆる人に対する労働権と安全な労働環境確保」と重なりあっています。原則④「強制労働の排除」と⑤「児童労働の実効的な廃止」は、SDGs8の小目標7「強制労働や現代の奴隷、人身売買、児童労働の排除」によってSDGsにも組み込まれています。
また、原則⑥「雇用と職業の差別撤廃」は、SDGs10の小目標2「あらゆる人に対して社会的・経済的・政治的包摂性を促進する」と小目標3「差別的な法制度等を廃止して、平等な機会を確保し、結果として不平等を減らす」に包括されています。
労働分野と関連するSDGsの小目標
- SDGs8小目標8「あらゆる人に対する労働権と安全な労働環境確保」(原則③)
- SDGs8小目標7「強制労働や現代の奴隷、人身売買、児童労働の排除」(原則④⑤)
- SDGs10小目標2「あらゆる人に対して社会的・経済的・政治的包摂性を促進する」(原則⑥)
- SDGs10小目標3「差別的な法制度等を廃止して、平等な機会を確保し、結果として不平等を減らす」(原則⑥)
具体的には、日本企業が原料調達や製品の工場を低所得国の下請け業者に任せていて、そこで児童労働が行われているのは問題です。また、国内の例では、女性は出産・育児で産休を取るから、日本国籍ではないから、という理由で、不採用にする・昇進の機会を奪うといった差別も撤廃されるべき、と原則⑥は定めています。

日本では、採用の際に履歴書に性別や名前を書く欄が必ずと言っていいほどありますが、欧米諸国ではそういった差別や偏見に繋がる項目を伏せて、採用面接を行う企業が増えてきています。
環境
環境分野の原則⑦「環境問題の予防的アプローチ」、⑧「環境に対する責任のイニシアティブ」、⑨「環境にやさしい技術の開発と普及」は、それぞれ幅広く環境に関するSDGs6「安全な水とトイレを世界中に」、7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」、12「つくる責任、つかう責任」、13「気候変動に具体的な対策を」、14「海の豊かさを守ろう」、15「陸の豊かさも守ろう」に関連しています。
例えば、原則⑨は環境上適正な技術の開発と普及を推奨しており、環境上適正な技術とは、持続可能な方法で資源を利用・再利用し、結果的に水質汚染や森林破壊を防止し、気候変動を最小限に抑え、海や森の生態系を保護するものです。
腐敗防止
原則⑩「強要や贈収賄を含むあらゆる形態の腐敗防止の取り組み」は、SDGs目標16「平和と構成をすべての人に」の小目標4~6に深く関連しています。小目標4では、不透明なお金や武器の流れを減らし、組織犯罪に対抗します。小目標5は、あらゆる形態の汚職と贈賄を大幅に減らすことを定めており、小目標6はあらゆるレベルの組織で透明性を高めることを目指しています。
4. 企業がグローバル・コンパクトに加盟するメリット
人権・環境が審査対象項目に?欧州では既に法整備への動き
欧州においては、グローバル・コンパクトの10原則を企業が順守することは、推進するべきものである、逆に守っていないことはビジネスに負の価値であるという認識が早くから広まっていると言えます。グローバル・コンパクト加盟企業数は欧州の企業が圧倒的に多く、2015年時点で既に6,000近い 欧州企業・団体が加盟済みでした。
ヨーロッパでは、主要企業がみずから、環境や社会に配慮しない企業を規制する法整備への賛成を表明しています。例えば、2020年9月には、アディダス、ユニリーバ、ネスレ、アルディなどの大企業を含む26社が、人権と環境の審査(デューディリジェンス)を企業に義務付けるEU全体の法の整備を歓迎する旨を発表しました。人権・環境のデューディリジェンスとは、企業活動が人権と環境を尊重していることを確保・実証するプロセスのことを指します。
欧州企業がEU全体の法整備を歓迎する理由は、人権・環境配慮の重要性を認識しつつ、自社がそれを強みにすることで競争に勝つことができると分かっているからです。人権・環境に配慮しない形でサービス・製品を提供する企業は規制されてしかるべき、と考えているのです。
EU法も実際に制定されれば、サプライチェーン全体に影響があるため、日本企業も他人事ではありません。日本国内も、すぐにではないかもしれませんが、いずれ法的規制がはじまる可能性は高いため、今から対応の準備を始めることが得策です。
国際的な大きな潮流を理解し、競争力を高める!
SDGsという言葉が日本社会にも浸透しつつあるように、人権・環境配慮の重要性は今後は世界中、そして日本で高まっていくことが考えられます。その際に慌てて対応するのではなく、今から大きな国際潮流をとらえ、理解し、先取りした取り組みをすることで、安定した企業経営に繋がります。
グローバル・コンパクトに加盟することは、最新の国際潮流に乗り、急速に変わりゆく社会の中でも競争力を高く維持する企業グループへの仲間入りを果たす第一歩になると言えます。

ネットワーク上で情報交換
その他にも、日本企業が持続可能性やSDGsに取り組むべき理由を説明した記事はこちらをご覧ください。また、グローバル・コンパクトに加盟することで、国内外の他の加盟企業と情報交換ができる、というメリットもあります。日本にはグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンという国内のネットワークもあり、他の加盟企業との交流することができます。
5. 加盟企業事例
加盟している日本企業の例として、リコーグループの例を紹介します。リコーグループは2002年に、日本企業としては2番目にグローバル・コンパクトに加盟しました。その後、2004年には10の原則を反映した、リコーグループCSR憲章及び行動規範を制定しました。
リコーグループの取り組みで特徴的なのが、「社会に対する基本的な責任」を果たす領域と、グローバルな社会課題に対して「意思と責任をもった社会貢献活動」と「事業を通じた社会課題解決(共通価値の創造)」の3つの領域を明示し、それぞれに取り組んでいる点です。「共通価値の創造」とは、企業が社会ニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されることを目指す経営理念のことを指します。
つまり、リコーグループは本業と関係の薄いボランティアやチャリティー活動を行っている訳ではなく、自社が深く関与する重要社会課題(マテリアリティ)やSDGsの目標を特定し、その点に絞って共通の価値を生み出す取り組みをしています。
例えば、印刷機の会社であるリコーは、製品を通じて森林を伐採し、環境負荷が高まるのは不本意でないと考えました。そこで、「大量生産・消費・廃棄」という一方通行の経済社会活動から、限られた資源を最大限に活用する「循環型社会」の実現を目指しています。これはグローバル・コンパクトの環境分野の原則⑦~⑨、及びSDGs12「つくる責任、つかう責任」に貢献します。
そこで、再生機の提供を開始しました。
リコーの再生機は、市場から回収した製品をユニットあるいは部品単位まで分解し、所定の品質基準で保証を行う部品または所定の品質基準で必要な部品を交換し再製造した製品で、資源の有効利用を最大限に実現できる製品です。 欧州では、GreenLineシリーズとして、すでに再生機市場が確立している先進国市場、先進国における後発市場、新興市場の3つにわけ、それぞれの市場ニーズにあったモデルを供給しています。
RICOH「回収した製品の資源を最大限活用し、「循環型社会」の実現を目指す」マテリアリティに対する取り組み事例 (最終アクセス2020年12月13日)
このように自社が最も深く関わる社会課題やSDGsの目標を特定し、自社の本業を通した共通価値の創造を実現しています。その他、目標12への取り組み事例はこちらの記事をご覧ください。
6. グローバル・コンパクト原則実施のステップ
最後に、具体的なグローバル・コンパクト原則実施のステップを見ていきましょう。
- グローバル・コンパクトを理解する
この記事を読んで、さらに詳しくグローバル・コンパクトについて知りたいと思った方は、ぜひグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのHPを訪ねてみてください。原則のより詳しい説明資料(日本語)はこちらで見つけることができます。 - マテリアリティ(優先課題)を見つける
グローバル・コンパクトの10原則の中で、自社にとっての優先課題を見つけましょう。社内の経営層をしっかり巻き込んで、役員や経営の企画を行う部署等が中心となり、関係各部(サプライチェーン、原料調達、環境、現場担当など)と意見交換をしながら、どの分野・原則に取り組むか見定めます。 - 目標を設定する
見つけたマテリアリティに対して、まずは現状を把握しましょう。その後、大目標とそれを細かくした中目標、そして実現可能な数値に落としこんだ小目標を設定しましょう。達成時期の設定も忘れずに。 - 経営に取り込む
社長や経営層が、明確に経営戦略の中にグローバル・コンパクト原則実施を位置付けます。その上で、関係各部が小目標達成に必要なアクションをリストアップしましょう。行動計画を立て、担当部署や担当者を明らかにします。意見交換の段階から各担当者を議論に巻き込んで、実施しやすくすることがポイントです。 - 評価
実施後の評価と報告を忘れないようにしましょう。さらなる改善点が見つかったら、それを次回の計画に盛り込みます。報告書は社内で共有し、社員全員が共通の意識を持てるようにしましょう。 - 報告
グローバル・コンパクト署名企業には、グローバル・コンパクトの10原則の実践状況と成果をグローバル・コンパクト本部へ提出する(署名後1年以内にCOP(Communication on Progress)第1回目を提出し、以降は年1回提出する)ことが義務づけられています。
その他、「グローバル・コンパクトの10原則とSDGsの実現を目指した活動を進めること」と「グローバル・コンパクトに参加していることやグローバル・コンパクト原則を積極的にPRすること」も奨励されています。
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン事務局が、加盟希望企業を対象に、署名までの流れを説明する説明会を開催しています。詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
いかがでしたか?本記事では、2030年までの数値目標SDGsに比べて、期限なく原則を示している国連グローバル・コンパクトを紹介しました。グローバル・コンパクトは、企業を中心とした自発的なネットワークです。企業はグローバル・コンパクトに参加することで、世界全体で起きている持続可能な経済成長を目指す潮流にうまく乗り、それをアピールすることができ、結果として安定した経営に繋げることができます。
リコーグループの事例でも紹介したように、重要なのは、これらの理念を自社の本業に取り入れ、社会的価値と経済的な価値を同時に創造する姿勢です。具体的には、自社がグローバル・コンパクトの10原則やSDGsのどこにどの程度貢献しうるのか、明確にマテリアリティと目標を設定することです。グローバル・コンパクトというグローバルなネットワークに参加することは、その第一歩となります。
グローバル・コンパクト原則を経営戦略として活用していくには・・・
「6.グローバル・コンパクト原則実施参加へのステップ」に記載のステップを実行するのは「言うは易く行うは難し」ですが、社会からの信用を高めつつ社員の士気も高める、貴重な打ち手です。成功させるには経営層のコミットメント(明確な意思表示)に加え、社内の利害関係から離れた主体による、一時的な人的リソースの提供が必要です。トークンエクスプレス株式会社には、それが可能です。