あなたの会社は、自社が関わる”サプライチェーン”を管理できていますか?
「仕入先と販売先はわかるけど、その先はわからないよ。」という状態になっていませんか?
国境を越える物流が当たり前になっている現在、サプライチェーンを管理することは企業のさまざまなリスクを減らすことに直結します。
ITの発達によって、サプライチェーン管理ができる範囲がどんどん広がっています。
さらに、サプライチェーン管理に積極的に取り組むことが、社会から「上質な会社」、「社会的に価値の高い会社」だと認められるような時代になってきています。この傾向は国連の推進する「持続可能な開発目標(SDGs)」に、企業のサプライチェーン管理を求める目標が含められていることからも明らかです。
この記事では、世界のサプライチェーン管理の最前線をご紹介するとともに、あなたの会社ですぐに取り組める「はじめの一歩」をご紹介します!
目次
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1. サプライチェーン管理ってなに?

モノを取り扱うビジネスはすべて、仕入先があって、販売先があります。仕入と販売の一連の数珠つなぎを“サプライチェーン”と言います。そのサプライチェーンを管理することがサプライチェーン管理ですが、”モノ”の流れの管理のみならず、データの流れの管理や財務面の管理も含まれます。
参考資料:サプライチェーン管理とは (出典:オラクルウェブサイト)
2. サプライチェーン管理による経営リスクの低減
災害に強い経営体制づくりのためのサプライチェーン管理
あらゆる企業で、自社の仕入先と販売先の管理はされているでしょう。これはサプライチェーン管理の最も基本的な段階と言えます。こうした自社に”近い”範囲でのサプライチェーン管理を、もう少し先まで見えるようにしておくと、さまざまな経営リスクの低減につながります。
例えば、災害時等でのサプライチェーンの途絶に対して、迅速に対応することができます。2011年の東日本大震災の際には、東北に自動車向けの半導体集積回路(マイクロコンピュータ)の生産拠点が集中していたため、そのサプライチェーンが一時的に途絶し、日本全体の生産活動が大きな被害を受けました。
参考資料:内閣府「平成24年度年次経済財政報告 」
第2章第1節「生産の立て直しとサプライチェーンの再編成」
上記の内閣府の報告書によれば、資本金10億円を超えるような大企業においては、仕入先が多岐にわたるためサプライチェーンの途絶などがあった場合に対応がしやすく、サプライチェーン寸断の影響を緩和させられましたが、規模の小さい企業は、部品調達先の多様化の重要性は認識しているものの、コストとの関係から多様化できない、という現実がありました。サプライチェーン管理は小さな企業にも必要ですが、いきなり大規模に取り組むことはできないのです。
このように、規模の小さい企業も含めてすべての企業は、自社のサプライチェーンを常に把握し、もしもの時にすぐに対応できる経営体制を、平時から徐々に整えておくことが必要です。

社会的に望ましくない仕入先からの調達の防止
もうひとつ、経営リスクの低減のためにサプライチェーン管理が必要である ことを教えてくれる事例をご紹介しましょう。サプライチェーン管理ができていないと投資家から見られたために、投資が手控えられ、好業績なのに株価が低迷した事例です。
ブラジルを本拠地とする多国籍企業JBS S.A.は、食肉生産加工業者です。同社は米国でも事業展開をしています。その米国事業において、JBS S.A.はコロナ禍においても利益幅を拡大し、中国への輸出も増加させ、申し分ない財務成績を残しました。しかし、株価は低迷していました。
その株価低迷の原因として挙げられていることの一つが、ブラジルのアマゾン川流域の、違法な森林伐採による土地で飼育された牛を、JBS S.A.が仕入れているのではないか、と投資家から疑われたことです。アマゾン川流域の違法な森林伐採は、世界的に問題視されていて、それが大規模な森林火災の原因になったり、アマゾンの熱帯雨林からの大量の二酸化炭素排出につながると指摘されています。
参考ページ:アマゾンの森林火災は“必然”だった──急速に進む恐るべき「緑の喪失」のメカニズム
出典:WIRED
掲載日:2019年8月28日
JBS S.A.がサプライチェーン管理を十分に行っていないために間接的に森林伐採に関与していると投資家から疑われた結果、実際にJBS S.A.への投資を手控える投資家が現れました。ノルウェー最大の年金基金であるKLP and Nordea Asset Managementが、ESGの観点 から同社への投資をしない方針を決定したようです。
JBS S.A.が、もし自社のサプライチェーン管理を適切に行い、アマゾン川流域で違法に牛を飼育している業者から牛を仕入れない体制を築いていれば、好業績を背景に投資家からの投資が流入し、高い株価を誇ることができたでしょう。
3. サプライチェーン管理と持続可能な社会への貢献
持続可能な社会のためにサプライチェーン管理に取り組む企業の好事例
前章でご紹介したJBS S.A.の事例は、サプライチェーン管理が「持続可能な社会づくり」と密接に関連していることを示しています。実際、国際連合(United Nations, UN)が推進する「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」においても、企業によるサプライチェーン管理を前提とする目標設定が多くなされています。
ここでは、持続可能な社会の実現のために、積極的にサプライチェーン管理に取り組む企業の事例を3つご紹介します。
マルイグループの事例
ファッションビルの丸井などを傘下にもつマルイグループは、そのプライベートブランドの開発において、サプライチェーン管理を、取引先も巻き込んで進めています。
参考ページ:お取引先さまとの責任ある調達
マルイグループは以下のことを行っています。
① 調達方針の策定
マルイグループは2016年4月に、商品の製造過程における社会的責任を果たすことを目的に、「マルイグループ調達方針」 を制定しています。小売業を手掛ける同社が、その調達方針の制定の目的として「社会的責任を果たす」という軸を持っていることが画期的です。実際、その方針の項目の中に、「人権の尊重」、「労働環境の整備」、「公正な取引」、「環境の保護」、「地域コミュニティへの貢献」など、利益一辺倒では出てこない言葉も含まれています。
② 取引先とのコミュニケーション
同社は、プライベートブランドの取引先約100社に対し、上記調達方針のもととなる考え方の説明会を開催し、取引先から理解を得たといいます。また、商品の製造を委託している国内外の工場の現地視察を、取引先も巻き込んで実施 しています。
フランスのタイヤメーカー、ミシュランの事例
世界的なタイヤメーカーであるミシュランは、天然ゴム産業を持続可能なものとするため、天然ゴムのサプライチェーンをマッピングするスマートフォン用アプリケーションソフトを開発しています。
天然ゴムのサプライチェーンには世界中で約600万人のゴム農園従事者、10万人の仲介業者および500か所を超える加工工場などが存在すると言われます。この複雑なサプライチェーンに関する情報を収集し、その情報が世界中のタイヤ製造業者に提供されることによって、天然ゴムのサプライチェーンの透明性の向上と、産業全体を持続可能なものとすることを目指しています。
参考プレスリリース:
ミシュラン、コンチネンタル、SMAGの3社、持続可能な天然ゴムのサプライチェーンを促進するスマートフォンアプリ開発に特化した合弁会社設立
掲載日:2019年10月3日
スターバックスの事例(ブロックチェーン技術の利用)
コーヒーチェーンを展開するスターバックスは社会の持続可能性に対して高い感度を持っている企業ですが、持続可能な社会のためのサプライチェーン管理について、先進的な取り組みを行っています。
その取り組みとは、IT企業のマイクロソフトをパートナーとして、ブロックチェーン技術を活用し、コーヒー農家から消費者がコーヒー豆の袋を手にするまで、来歴を追跡可能とするシステムを構築、消費者が利用できるようにしているというものです。
参考ページ(英語):
Greener cups, fewer straws and tracing your coffee’s journey via app
掲載日:2019年3月20日
スターバックスは、この取り組みを行うはるか前、10年以上前からコーヒー豆の来歴管理を行ってきたといいます。この取り組みによって、その来歴データを顧客と共有できるようになりました。顧客は、目の前のコーヒー豆がどこから来ているのか、どのように栽培されているのか、そして持続可能で倫理的な方法で生産されているのかどうかを知ることができるようになり、スターバックスの製品に対する信頼と安心を持つようになります。
SDGsにはサプライチェーン管理が必要なターゲットが多く存在
持続可能な社会づくりのためにサプライチェーン管理を行う企業の事例を3つご紹介しました。3社とも企業の社会的責任という意識を持ってサプライチェーン管理に取り組むことで、特に社会から見た企業イメージにも関係する、広範な経営リスクの低減を行っています。
「社会から見た企業イメージ」というものは漠然としてわかりにくいものです。
何が社会的に善とされていて、何がそうではないのか。
これまでは明確な範囲が限定的でした。
しかし昨今、国連が推進するSDGsの広がりにより、その社会的に善とされるものが、さらに広範囲に明確化されました。
SDGsでターゲットとされているもののなかで、持続可能な社会づくりのためのサプライチェーン管理に関係するものとしては、ゴール12「つくる責任、つかう責任(持続可能な生産消費形態を確保する)」があります。
SDGsのゴール12に関心のある方は、以下の記事もご覧ください。
SDGsを入口に経営のためのサプライチェーン管理!その第一歩とは

企業は、2030年までに達成することを目標とするSDGsへの対応が問われており、カタチだけではなく、腰をすえた取り組みが求められつつあります。
しかし、売上にすぐに直結しない施策に大きな投資を行うことは、社内で合意を得にくいという企業がほとんどでしょう。そのような企業においては、SDGsの文脈も活用しつつ、まずは何らかの認証の取得を目指したり、公的機関の取り組みに参加したりすることをおすすめします。そうすることで、SDGsの切り口から、自社のビジネスを取り巻くサプライチェーンの全体像を知ることができます。
対象のサプライチェーンにはどのようなプレイヤーが存在するのか。そうしたプレイヤーの間で、現状どのような社会課題が認識されているのか。サプライチェーンの一部に存在する自社が、社会課題解決に貢献できることは何なのか。そのような視点でサプライチェーン上の他社と交流を持つことが、経営に活きるサプライチェーン管理の第一歩になります。
サプライチェーンに関する認証は、業界ごとにさまざまに存在します。
例えば、マーガリンなどに利用され、「植物油」という食品表示名をもつパーム油には、「持続可能なパーム油のための円卓会議( RSPO, Roundtable on Sustainable Palm Oil )」という機関が運営する「RSPO認証」という制度があります。
パーム油は、その主要生産国が、インドネシアやマレーシアなど地球で最も生物多様性の豊かな熱帯林が広がる国々であり、その生産において熱帯林が大規模に失われてしまった歴史があります。熱帯林の開発にともなって、泥炭地が失われたり、森林火災が起きたり、野生動物や先住民がすみかを奪われるなどの社会課題が発生します。また、生産に携わる人々の労働環境や収益性の問題もあります。
参考資料:パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの(WWFジャパンのウェブサイト)
こうした環境問題・社会問題に配慮して生産された「持続可能なパーム油」を認証する仕組みをRSPOが整備しています。RSPO認証油であれば、環境問題・社会問題に配慮されつつ生産・加工されたパーム油である、ということになります。
こちらのページ で、RSPOに賛同し円卓会議のメンバーとなっている企業が確認できます。企業の所在国毎にソートすることもでき、2020年10月時点で219の日本企業がRSPOのメンバーになっていることがわかります。
RSPOのような、すでに存在する認証制度や公的な機関の取り組みに参加することで、自社のサプライチェーンの上流・下流で何が問題になっているのかを知ることができ、経営リスクを減らす上で何をすべきか、具体的に検討を始めることができるでしょう。
まとめ
本記事では、経営管理と直結しているサプライチェーン管理についてご案内しました。その中で、サプライチェーン管理を行うことでどのような経営リスクを低減することができるのか、実例とともに解説しました。
サプライチェーン管理が不十分だったために、企業イメージを損ない、株価の低下を招いた食肉加工会社のJBS S.A.社の事例からは、「持続可能な社会づくり」とサプライチェーン管理が密接に関連していることがわかります。
「持続可能な社会づくり」に貢献するという明確な目的のために、サプライチェーン管理に取り組む3つの企業のご紹介もいたしました。
最近日本でも認知が広まってきている「持続可能な開発目標(SDGs)」においても、サプライチェーン管理に関連するものが一つの大きなゴール「12 つくる責任、つかう責任」として設定されています。
サプライチェーン管理は、売上にすぐに直結する施策ではありません。しかし、中長期で取り組むことで、社会からみた企業イメージを向上し、企業価値をあげ、結果として優秀な人材の採用や、売上増加、株価の上昇、投資の増加につながるでしょう。その過程で起こる様々な経営リスクに対する耐性も向上するはずです。
いきなり大きな投資を行う必要はありません。パーム油のRSPOなど、既にある業界団体の活動に参加し、まずは自社を取り巻くサプライチェーンの全体像を知ることが第一歩となります。サプライチェーン上に存在する経営リスクの全体像をおおまかに把握したうえで、具体的なサプライチェーン管理のアプローチを検討すると良いでしょう。
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