ESG投資で存在感を増すAIの事例

新型コロナウイルス感染症で、世界は大きく変化しました。

様々な変化の中で、世界の金融業界が注目しているのが「ESG投資」への急激な資金の流入です。

「ESG投資」という言葉を聞いたことはありますか?

ESG投資とは、投資対象がどれほど「儲ける力」をもっているかという視点だけでなく、環境(Environment)社会(Social)へいかに配慮した事業運営をしているか、組織運営の適切性(Governance)も考慮した投資のことを指します。

実は、このESG投資の世界的な盛り上がりは、日本企業、日本のビジネスマンにとっても大きなビジネスチャンスなのです。 このビジネスチャンスをつかむために知っておくべきことを、この記事でご紹介します。

カギは、ESG投資の裏にいる“AI”の存在です。

目次

  1. なぜコロナでESG投資に資金が集まった?
  2. ESG投資におけるESG格付の役割
  3. ESG格付で増加するAIの活用
  4. AIを活用したESG格付の事例
  5. AI活用が進む中で自社がESG高格付を得るための5つの打ち手
  6. まとめ

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1.なぜコロナでESG投資に資金が集まった?

ESG投資とは?

ESG投資は、利益だけではなく、例えば以下の事項にきちんと配慮した経営ができている企業に投資しよう、というものです。

ESG投資の評価項目の例

      • 事業が地球環境に与える悪影響をなくそうとしている(環境配慮)
      • 事業が社会における不平等の低減に貢献するものである(社会配慮)
      • 経営陣に対し、多すぎない報酬基準を定めている(企業統治)

なぜコロナで資金が集まる?

ESG投資は、新型コロナ流行前から人気が高まっていましたが、新型コロナ流行によって、企業が従業員への疾病手当金を支給できるようにしているかや、適切な労働条件を提示しているか等が、ESG投資をおこなう投資家にとっての注目ポイントとなりました。こうした、企業が従業員との関係に適切な配慮を行なっているかは、「社会的配慮」として、ESGのSに含まれます。

参考資料:焦点:変わるESG投資、コロナで「E」より「S」が前面に
(REUTERS, 2020年5月19日配信)

新型コロナのなか、一部の投資家たちは、こうした従業員への配慮を行う企業に投資したい、と考えるようになり、ESG投資への関心が高まっています。

コロナ禍で好成績?

また、ESG投資が新型コロナ流行の環境下において、比較的好パフォーマンスを出した、という直接的な理由もあります。

例えば、米国ニューヨークのメディア”Pensions&Investments”によれば、本年4月1日時点での比較で、1年前からESG投資を行なった場合には、投資した額の4.3%の損失で済んだ一方、1年前からESG投資ではない一般的な投資を行なっていた場合には、7.0%もの損を出してしまったことになる、という試算を発表しています。

新型コロナで見えたESG投資の強さ / 企業経営者は何をすべきか

さらに、ESG投資に適格な企業は、一般的なリスク管理能力が高い、という認識が広まり、ESG投資は中長期的に良好なリターン(投資戦績)をもたらすと考えられるようになりました。

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こうした様々な理由から、新型コロナ流行開始以降、ESG投資への資金流入が急増しています。自社の株式の価格を上げたい、自社への投資に関心を持つ投資家を増やしたい、という企業は、ESGという切り口から、自社事業をとらえなおして外部発信していくという選択肢も有効になってきています

2.ESG投資におけるESG格付の役割

ESG投資の投資先を見つける方法

それでは、ESG投資とは具体的にどのような企業に投資を行うものなのでしょうか?

環境面(E)、社会面(S)に配慮した事業運営を行い、適切な経営を行なっている(G)企業を見つけるにはどうすればいいのでしょうか?

欧米の企業は、”ESG Report”や”Sustainability Report”といった名称で、自社のESGに関する取り組みを積極的に発信しています。

例えば、ESGの取り組みに積極的な、米国小売業大手Krogerは、もはやESGの取り組みは経営の主要な一部といわんばかりの、緻密で詳細なESGレポートを発表しています。

参考資料:Kroger 2020 ESG REPORT

日本企業も最近では、「統合報告書」「サステナブル・レポート」といった名称で、自社のESGの取り組みを発信する事例が増えてきています。例えば伊藤忠商事は、「三方よし」の価値観から、積極的に発信を行なっています。

参考資料:伊藤忠商事 統合レポート2020(オンライン版)

本来であれば、ESG投資を行う投資家は、投資を考えている企業がどの程度ESGにしっかりと取り組んでいるか、1社1社ウェブサイトをみにいって対象企業のESGの取り組みを確認するのが理想的です。

しかし、それをするのはとても大変ですよね?

さらに、ESGに詳しくない人がウェブサイトをみても、その企業が他社との比較において、ESG的にどれほど優れた取り組みをしているかすぐにはわかりません

こうした背景から、ESG投資においては、「ESG格付」と呼ばれる指標を用いて投資を行うことが一般的です。

ESG格付けとは?

ESG格付は、専門の格付業者が、各企業の発信情報を見たり、各企業に質問票を送ったり実際にヒアリングに赴いたりして、格付を決めています。

代表的な格付業者としては、例えば以下の業者が挙げられます。

ESG格付業者の例

      • MSCI(米国モルガン・スタンレー系)
      • RobecoSAM(米国S&Pグローバル系)
      • FTSE Russell’s(ロンドン証券取引所系)

格付けのもとになっている情報は主に英語!?

上記以外にも、多くのESG格付業者が存在しますが、残念ながら現時点では、世界の投資家が注目するのは、欧米の格付業者です。

したがって、英語で発信されている情報をもとに格付が行なわれているのです。

こうしたESG格付業者は、最近ではウェブ上からも、ESG格付に必要な情報を収集しています。したがって、ESG投資家からの自社への投資を獲得したい日本企業は、ウェブ上での英語での発信が重要です

3. ESG格付で増加するAIの活用

企業が発信する情報は古すぎる

ESG格付には多くのデータが必要です。

そうした情報を、格付対象企業が十分に開示していない可能性があります。(特にネガティヴな情報は開示される可能性が低いです。)

また、企業のESGに関する取り組みの公表は、年1回など、頻度が低い場合が多く、もっと頻繁に投資を行う投資家にとっては、最新のデータに基づいたESG格付のほうが利用しやすいのです。

そのため、ESG格付業者は、政府や研究機関NGOが一般公開している情報なども含めて広範な情報源から情報を集めます。インターネット上に情報が多数掲載される現在では、ESG格付業社は、インターネット上から多くの情報を収集します。インターネット上には、膨大な量の情報があるからです。

膨大なネット上の情報を人力で分析しきれない

データを集めた後は、格付業社はそのデータを分析して、個別企業にESG格付を付与していくことになります。

しかし、ここで問題が発生します。

インターネット経由で集めた膨大なデータは、見るだけでも一苦労です。

また、その膨大で広範なデータが、個別企業のESG格付にどのように影響を与えるものか、人力で関連づけるのも大変です。

さらに、格付業社のスタッフが人力でそうした作業を行なった場合、ESG格付判定において、データの利用方法や格付方法の基準に、個人差、主観が含まれてしまう可能性があります。

格付は、全ての対象企業を、全く同じ基準とルールに基づいて付与されなければ使い物になりません。

インターネットを用いて大量のデータが収集できる今、ESG格付業者は、人手に頼ったESG格付業務から脱皮しなければならない状況になりつつあるのです

4. AIを活用したESG格付の事例

こうした状況の中、ESG格付において人の介入を無くし、人工知能”AI”を活用したESG格付を行う格付業者が登場しています。

事例1:Arabesque

Arabesqueは、バークレイズ銀行(Barclays Bank)から2013年に分社して誕生した格付会社です。

多様なデータ源から大量に情報を収集し、AIを用いて7,000を超える米国上場会社のESG格付を、毎日更新しています。

ArabesqueのESG格付の最新版は、サービスを購入しなければ入手できませんが、3か月前の格付であれば、Arabesqueのウェブサイトから閲覧することが可能です。

事例2:Truvalue Labs

AIを活用したESG格付で最も初期から取り組んでいるのは、Truvalue Labsです。

こちらは、その格付において機械学習と自然言語処理を使用して、12を超える言語のメディア出版物、NGOレポート、学術論文、政府機関が発行する報道資料や法的に開示が義務付けられている資料やソーシャルメディアなど、多様な情報源からデータを集めます。

興味深いのは、Truvalue Labsでは、格付対象となる企業から示される広報資料は、ESG格付に一切用いない点です。これは、企業が自ら開示するデータは、部分的で、バイアスがかかっているとTruvalue Labsが考えているためです

5. AI活用が進む中で自社がESG高格付を得るための5つの打ち手

このように人工知能”AI”を活用したESG格付が広がる中で、増加するESG投資の資金を自社に取り込みたい企業の経営者は何をすべきでしょうか?

ポイントは次の5つです。

      1. 自社の存在意義の中への、社会貢献の位置付け
      2. 社会への影響の、低コストなモニタリング体制整備
      3. 社会への影響に関する、日本語と英語での高頻度な開示
      4. 社会への影響に関する、公的機関や研究機関との協働
      5. 社会課題についての情報収集、自社事業の随時見直し

上記5つについて、一つ一つ見ていきましょう。

A. 自社の存在意義の中への、社会貢献の位置付け

これまで見てきたように、投資家の関心がESG投資に向かう中で、ESG投資を自社に取り込もうという企業は、既にESGの考え方を自社の経営方針に組み込み始めています。

ご紹介した伊藤忠商事も、セブンイレブンを展開するセブン&アイホールディングスも、消費財メーカーの花王も、自社の基本的な価値観や社是に結び付けてESGをとらえ、そうした発信をどんどん始めています。

こうしてみると大企業のお話かと思われがちですが、今後、大企業はその取引先にもESGの考え方を持つところを優先的に選択していくようになると考えられています。

実際、セブン&アイホールディングスは、「5つの重点課題」として、「お客様、お取引先を巻き込んだエシカルな社会づくりと資源の持続可能性向上」をかかげ、取引先にもESGの取り組みを求めていくことを示しています。

ESGは、主に格付会社がその評価指標を用意していますが、その評価の仕方は格付会社によってバラバラです。自社を格付会社の評価枠に当てはめていこうとして、表層的に取り組むのではなく、経営方針のまんなかに、社会への貢献をしっかり位置付け、自社が事業を通じてできることから考えていくというアプローチが、無駄が少なく、ESG的にも効果を上げやすい取り組み方です。

B. 社会への影響の、低コストなモニタリング体制整備

ESGの取り組みを行うにあたり、実務上の課題は、そのモニタリング(管理)のコストです。実際にESGに取り組むに当たっては、目標を定め、具体的打ち手を定め、評価指標を定めたうえで、指標をもとに進捗を管理しなくてはなりません。

これを本業と並行して行うことは、規模の大きくない企業にとっては大変なコストです。

対応策としては、通常業務の中で、手間なくESG関連指標を収集できる体制を、社内で整えておくことです。これは、ESG指標を定める際に、実務の業務プロセスをしっかりと見える化し、そのなかでコスト低くデータを取得できる指標を選ぶことで実現できます。

C. 社会への影響に関する、日本語と英語での高頻度な開示

ESG格付にAIが用いられ、インターネット上から常時幅広くデータが収集されていることを既にご紹介しました。

このような環境においては、自社のESGの取り組みを年に一回、パンフレットで紹介するだけでは、ESG投資資金を自社に取り込むための情報開示としては全く不十分です。

ESG格付会社の情報収集は日本語でも行われている可能性はありますが、できるだけ英語版も用意し、プレスリリースなどで高頻度に情報共有を行う必要があります。

このとき、あまり良い成果が出ていない場合もあると思います。

それでも頻度高く開示し、その成果が改善されていく様を開示していくことが重要です。

D. 社会への影響に関する、公的機関や研究機関との協働

ご紹介したTruvalue Labsは、格付対象の会社の開示情報はあえて利用せず、公的な機関の情報を利用するとしています。

こうした情報の客観性を重んじる格付機関が存在することを鑑みれば、ESG関連の発信をしっかり行う場合、第三者的立場を取れる協業先と組んでおくことが有効です。

課題先進国と言われる日本において、企業と一緒に公益のための取り組みを行いたいと考える公的機関は多く存在しますので、企業側でしっかりと取り組みの計画を立てれば、それに賛同し協業してくれる公的機関、研究機関は見つけやすいです。

E. 社会課題についての情報収集、自社事業の随時見直し

有名な社会課題には、少子高齢化や地方の過疎化などがあります。

そうした大きな課題に、一企業ができることは少なさそうだという意見をよく聞きます。

しかしながら、少子高齢化も地方の過疎化も、たくさんの社会課題の集合体であると考えるたらどうでしょうか?

実は企業が自社事業を通じてESG関連活動を行う際に一つの障壁となるのは、自社事業が、社会にもたらしている価値を見過ごしてしまいがちだということです。

大きな社会課題の解決に向けた貢献方法を具体的に考えると、自社の事業を違う角度から見るだけで、すでにESG活動と言えるものだった、という場合があります。

社会課題は「発見」されるものです。こうした「違う角度からの視点」を見つけるために、どのような社会課題が存在するのか、広く意識を向けておくことが重要です

まとめ

この記事では、ESG投資(環境面、社会面への配慮を行い、適切な企業経営を行っている企業への投資)が注目され、新型コロナ流行後にESG投資額が急増する今、そうしたESG投資の資金を自社に取り込みたい企業が何をすべきか、ご紹介しました。

特に、ESG投資においては、格付業者が企業に対して付与するESG格付がキー情報となっており、その格付において、AIが活用されている現状を、具体事例とともにご紹介しました。

記事内でお示しした5つの打ち手を通じて、ESG投資をめぐる資金の流れを、ぜひ自社の経営に取り込んでいきましょう!

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